「神の敵対者」の意。サタンはキリスト教に於ける七つの大罪での「憤怒:Wrath」を司る存在である。サタンが憤怒の罪を何故司るようになったかは、曖昧なものが多く明確な定義は定かではない。

サタンほど存在自体が曖昧で定義の難しい悪魔は他にはいない。なぜなら「サタン」という名称は、固有名詞であるか代名詞であるかすらも定かではないからである。

そもそも旧約聖書が記された頃のサタンという言葉は「敵対者」の意だったという。さらに遡れば「妨げるもの」「障害物」程度の意味の普通名詞だったのだ。それが時代を経て、伝承や戯曲・小説を通して拡大解釈され、ついには個の格を獲得したようである。

何にせよサタン=ルシファーとする説もあれば、サタン=「悪魔の指導者」というように、サタンを強大な悪魔を指す呼称とする説もある。即ちベルゼバブもベリアルもアザゼルも全てサタンということになる。また、サタナエルが堕天する際、天使を意味する「el」を名より剥奪されサタナエル=サタンとなったとする説、エジプトの砂漠と嵐の悪神セトから「セト=アン(セトの犬)」が変化したとする説もある。

つまる所サタンとは神を正当化、神聖化するに当たっての対極的な悪徳、背教の具現化であり、さながら人々の負の感情を全て飲み込んだ存在であるとも言えよう。

・・・この曖昧模糊の如何様にもとらえられる悪の存在は、道義・政治・社会、そして宗教的に迫害を行うには何とも利便性の高いものであったことは言うまでも無いだろう。特に中世の各種裁判においては極めて有効だったに違いない。

サタン/Satan