メフィストフェレスは中世ヨーロッパでは悪魔の代名詞とも言うべきポピュラーな堕天使である。悪魔らしい代名詞「光を憎む者」或いは「狡猾」な破壊者として知られる。

ときに不浄の王の代行者ともなり、その際はサタンと同一視されることもあるようだ。さらにはゾロアスターの悪神アンリ・マンユの性質を投影する意見も存在する。

しかし、メフィストフェレスはその実、強大な影響力は持ち合わせていないのかもしれない。召還者との契約の際にルシファーに確認を取りに地獄へ戻った――との記述も見受けられるのだ。

堕天の理由、天使であった頃の職務等のプロフィールは数少ない。かつての天の大君主であり、悪なる存在に堕ちたあとにも神に是認されることもある、というようにメフィストフェレス自身の生い立ちには謎が多い。

また、この悪魔を一躍有名にしたファウストでの一説に、行動如何で天界に戻れる人間をメフィストフェレスは心底羨んだと評されている。

メフィストフェレスの功績は悪魔観を変遷させた点にあると言えよう。従来の悪魔・堕天使像は恐怖や畏怖の対象であったが、メフィストフェレスの登場によって隣人的な振る舞いをする悪魔が多数描かれるようになったと思われる。

悪魔との契約や取引、一時の快楽、金銭の享受、やがて訪れる身の破滅――といった現代的な悪魔イメージを最初に実践したのがメフィストフェレスであり、メフィストフェレスは言わば魔界の革命児といった所であろうか。

メフィストフェレス/Mephistopheles