マステマの名はヘブライ語の「悪意/Mastemah」、もしくはアラム語の「非難者/Mastima」を起源としている。

マステマはサタネルであり、時にルシファー、サタンと同一視される。神の影マラークの最初の者であるマステマは、ヘブライ人に敵対する。しかし、それより特筆すべきは、マステマは神公認の悪魔の指導者である事だろう。

天使であった頃のマステマの任務は洪水後の世界、即ちノアの子孫たちを監視する事であった。しかし、美しい人間の娘に一目ぼれしたマステマは、その娘と結ばれ堕天する事となる。そして、マステマと娘の間には次々と巨人が生まれ、地上は再度混乱に見舞われたのだ。

この混乱は、窮したノアの陳情を受け入れた神によって平定される。そうして堕天使は地の深みに封じられ、巨人達は同士討ちさせられ肉体は死滅してしまう。

さて、ここからが特筆すべき点となる。堕天後のマステマは滅ぼされた巨人の魂――即ち悪霊を我が手で統べたいと神に進言し、神はこれに是の意思を示したのだ。

この事例はマステマを神公認の悪魔指導者とするのに充分な理由となるだろう。またここから堕天後の天使は神との意思疎通が可能であった、という事実も垣間見れる。

マステマは人間社会という悪の混在する世界の中で、天に従う悪を率いるという複雑な役回りを演じているのだ。

…となると堕天使達は、神の汚れ役を一手に引き受ける道化師なのであろうか?

マステマ/Mastemah