イブリースはアル・シャイターン/Al・Shaytanと呼ばれるイスラムの悪魔王である。名は「断念」「絶望」を意味する。別名ハリース/Halis。

ユダヤ・キリスト教でいうサタン・ルシファーに相当する強大な存在である。シャイターンという名は、響きのとおりサタンの名を元とする。また、アザゼルが地に堕ちる際、神に改名されイブリースとなったとも伝えられる。イスラムの伝承では、イブリースにはムスリムの信仰を妨げる9人の邪悪な子がいる、とするものもあるようだ。

イスラムの聖典であるコーランにはこのような一説がある。アラーが天使たちにアダム=人間にひれ伏すよう命じた。しかし、イブリースは炎で造られた高貴なる天使が、黒泥を捏ねて作った低俗な人間などにひれ伏すことはできない、と拒否したというのだ。

この反逆的な天使にアラーは慈悲を示したが、イブリースは掌を返し、「最後の審判が下り、地獄の業火が地を焼き尽くすその日まで、人間を恨み、惑わせ、悪の道へ誘う」と宣言したのだ。そして、この結果として、エヴァ(ハウワー)は禁断の実を喰らってしまった。

しかし、イスラム神秘主義者の中には、キリスト教におけるサタン擁護論と同様に、この悪逆なイブリースを擁護する者もいる。その理由として彼ら神秘主義者たちは、このような論理を展開する。

イブリースは敬愛するアラーの「アラー以外を崇拝してはならない」という命令を忠実に守るが故に、アダムを崇拝できないのだ、と。

イブリース/Iblis