グレゴリの筆頭を務め、サタネルにも分類される強壮な堕天使。ルシファー、サタンと同一視される事も多々ある。元は座天使であった。イスラムでは神に地へ投げ落とされイブリースの名を与えられた。「地獄の王」「人類を誘惑する者」とも呼ばれ、その姿は七つの蛇頭、十四の顔、十二の翼を持つという極めて先鋭的なものだ。また、スケープゴート(身代わり)という言葉はアザゼルの出自から生まれたものである。

堕天の一般的な理由は懲罰とされるが、アザゼルは自らの意思で天より降りたともいう。そして、その降天理由とは、地上監視の任務中に人間の娘と恋仲に落ち、遂には神の任務を放棄し娘と結ばれる為。要は駆け落ちである。

アザゼルの通俗的な解釈は、崇高なる神の命令を人間の色香に惑わされた無様な堕天使――となるが視点を変えれば、己に課せられた冷徹な義務と初めて芽生えた感情の狭間に翻弄され、二律背反の命題に結論を叩き出した人間臭い堕天使なのかもしれない。

降天後のアザゼルは神の英知を惜しみなく人間に授け、男は戦争を知り、女は化粧を覚え男を篭絡し姦淫に耽ったと伝えられる。結果、とある男は箱舟作りに奔走、地上は大洪水に見舞われたのだ。

このエピソードは、アザゼルによって本来性善的であった人間が性悪的になってしまった――と受け止められるが、アザゼルが人間に伝えたものは「科学」という概念の基礎とも解釈できよう。

我々人間の業を一人の娘を愛した降天使に擦り付けるのは、余りに醜く責任転嫁極まりない行為ではなかろうか?

アザゼル/Azazel