元は地上の監視者。今では二対の地獄の番人とされ、罪人に無慈悲に罰を与え続ける。地獄の番人かつ対で行動する民間伝承のマラーイカ(天使)ムンカルとナキールと似た役割を持つが、この二組の天使で大きく異なるのは、堕落して「いるか」「いないか」であろう。拝火教のハルワタートとアムルタートを起源としているとの説もあるようだ。

ハルートとマルートは、かのグリゴリの天使と同じ様に、人間について神に意見し堕天したとされる。過去イスラム世界でも、天使が堕落した人間を神に訴えたことがあったのだ。それに対し神は、天使も地に在れば堕落するだろうと退けた。天使達はこの御言葉に反発し、代表としてハルートとマルートを地上に送って実際に検証する事にした。

派遣されたハルートとマルートは偶像崇拝、姦淫、飲酒、殺人などの罪を犯さぬよう厳しく言い渡されていた。だが、このふたり、地上に降りるや、美しい娘に心惹かれてしまう。ただ悲しいかな、「お堅い」天使が幾ら口説いたところで、娘は一向になびく気配も見せない。

そこでふたりは、娘の気を引こうと刺激的な行為=アラーの禁じた罪を行おうと考え、まず軽い罪である飲酒をしてしまう。さらに偶然ふたりの泥酔姿を目撃した人間を殺害してしまったのだ・・・。こうして罪を犯したハルートとマルートは翼が使えなくなり、ニ度と天へ帰還する事を許されない存在となってしまったのである。

何にせよこのふたり、今まで解説してきた天使の個々の要素(地上監視者・地獄の番人など)を、数多く取り込んでいる存在といえよう。

ハルート&マルート/Harut and Marut