サタナエルはグレゴリの一人、また、大君主として伝えられている強大な堕天使である。…このサタナエルほど様々な顔をを持つ堕天使はそうはいない。

サタナエルについて文献を紐解くと、「サタナエルが堕天する際に、天使を意味する「el」を名より剥奪されサタンとなった」という解釈や、「イブに禁断の実を食べるように唆した蛇である」とも「最初の殺人者カインの父である」等という説まで、実に多くの伝承が残されているのである。

さて、サタナエルを語る上で外せぬのは東方正教会の異端派:ボゴミル派の教義だ。この教義でのサタナエルは、キリストとともに神の息子とされる。

さらにサタナエルは、神に叛いて地に降り、物質世界の創造主=旧約聖書における「神」になった、とも伝えられている。しかし、暴虐かつ邪悪なサタナエルは、神との約束を反故、創造した人間を虐待し続けた。この所業が旧約聖書にある幾多の戦や、ノアの箱舟事件の真相であるらしい。これらの出来事を経て、神はキリストを派遣して人間の救済を図ったのだ。

また、他の興味深いエピソードとしては、神に反旗を翻し全体の1/3の天使を率いて戦争を起こした話が挙げられる。天へ叛くという点においてルシファーの叛逆と酷似しているが、ここで注目すべきは、サタナエルは神に休戦を持ち掛け、第二の天界を創ろうと画策したことだ。

結局、サタナエルの天界は神の目論見によって瓦解を迎えるのだが、何にしてもこれほどまで「創造的」な堕天使は他に存在しないのではないだろうか。…創造主の座に就く夢に敗れし哀れな堕天使である。

サタナエル/Satanael