「真の統治者」たるアスタルテ。この女神は変遷の歴史の中で「天の曙の明星」「星の女王」など幾多の輝かしい称号を与えられる。だが、昇天した死者の霊魂を全てを管理下に置くというこの偉大な女神を、アスタロト=「男」に一神教徒は貶めた…。

この女神の歴史は、古代メソポタミアのイナンナにまで遡れる。そこからバビロニアの豊穣、性愛、金星、戦争を司る大地母神イシュタルとなり、やがて、シドン人の女神「天の女王」アスタルテとして崇拝されるようになった。その後、地中海を渡りギリシャのアフロディテと変貌、エジプトでは豊穣と戦の月女神アストレトとされた。

また、後世の芸術家・思想家に影響を与えた英国の画家・詩人ブレイクは、彼女をアシュタロスと呼びバアルの妻とした。さらに戦女神としての猛々しい性質からか、アナトやアテナとの繋がりを指摘する説もあるようだ。

アスタルテは様々な国・地域において、姿を変えながら信仰されていた。この女神の源流となった神々の多くは、夜空で最も光輝く金星もしくは月の女神であり、かつ破壊と創造を司る。アスタルテは輝ける大地母神にして、畏るべき戦女神だったのだ。

しかし、アスタルテはあまりに偉大な存在であったが為に、一神教に取り入れられるとその身は貶められ、男へと変貌、あげく大悪魔アスタロトとされてしまったのである。

…往時の力が絶大である程、転落後の罰は深く暗鬱たるものとなる。神にも人の世界と同様の原理が当てはまるのだろうか?

アスタルテ/Astarte