ニスロクはベルゼバブ配下の地獄の料理人頭として知られる。美味によって誘惑する者であり、そして食事を楽しむ権威者である。大きな鷲の頭をもつ神で、かつては権天使だったという。

ニスロクは元々アッシリアの偶像神であったようだ。列王記にアッシリアの専制王セナケリブに特に篤く崇拝された、という記述が見受けられる。しかし、神が遣わした死の天使によって、横暴なセナケリブの軍隊に罰が与えられ一晩で18万5千もの兵が殺されると、ニスロクは天への執着を失い、サタンの叛乱に加わったという。

天の叛乱に加わり地獄に堕ちた後は、七つの大罪「食欲」を司るベルゼバブに料理人頭として仕える。ここでニスロクは前職の経験を生かし、不敬にもエデンの不死の樹の果実を使って料理に味付けをするといわれている。

いつの世も、熟れた文明社会の持つ特徴のひとつに、美食が挙げられよう。乱世の世に食事の味など競い合っても無意味である。そんな時代には食事できることが重要であって、味など二の次だ。ましてや、信徒に禁欲的な生活を推し進めていた教会にとって、美食など罪そのものと考えられる。

そもそも美食、つまり食欲を過多に満たすことは、それだけで七つの大罪「食欲」の罪を犯しているといえるのだ。

しかも、禁断の素材を利用して料理をしていたというニスロク。この神が如何に背教的な存在と認識されていたか窺い知れよう。

ニスロク/Nisroc