サマエルの名は「毒をもつ輝かしい者(毒の天使)」の意のシュメール語である。また「闇の支配者」「神の悪意」の意も併せ持ち、「赤い蛇」とも呼ばれる。時にサタン、ルシファー、そして火星圏の軍神カマエルとも同一視される。

かつてサマエルは死、闇を司る天使だった。堕天後も神の意により死の天使として、死者の罪を容赦なく弾劾し慈悲の欠片も無く刑罰を執行する。ユダヤ教においては、モーセの魂を天国へ運ぶ任を果たせず、その際モーセに眼を潰され盲目となったともいう。

サマエルには天使だった頃、葡萄の木を楽園に植えたというエピソードがある。しかし、この行為に神は怒り、サマエルを叱責した。納得できぬサマエルはアダムを唆し、葡萄の実を食べるよう勧める。アダムは葡萄をただ食べるだけでは飽き足らず、その実を醗酵させ葡萄酒を作り始めた。

葡萄酒をがぶ飲みするアダムの子孫は親殺し、子殺し、姦淫、盗み、偽誓といった悪行を行うようになった。いつの世もアルコールの過剰摂取は人の行動を著しく粗悪なものにさせるが、古の時代では人には罪が無く、葡萄酒が悪いとの見解を示しているのである。

しかし、ここで一つの疑問が生じる。かつて、キリストは葡萄酒を「我が血なり」と発言したと伝えられている。では、キリストに流れる血は呪われたものであるのだろうか?

この疑問に対する回答は、ノアが洪水後の世界に植えた葡萄の木は神に祝福された物だから、とされる。・・・何とも都合の良い理由を後付けしたかのような答えではある。

サマエル/Samael