「蝿の王」ベルゼバブは七つの大罪「食欲、暴食:Gluttony」を司る。その由来は彼の作物を腐敗させる力に起因しているのだろう。サタネルでもある彼はかつて熾天使の地位にあり、ルシファーの右腕と評された。天の反乱の際にはその実力を如何なく発揮した。

仏語圏ではベルゼビュートとして知られるベルゼバブの名は、「館の主」「いと高き王」を意味する「バアル・ゼブル/Baal-Zebul」が、ユダヤの伝承の中で変質させられ「蝿の王」となったものである。ちなみにバアル/Baalとは「主」「王」を意味するセム語。

ベルゼバブのルーツは、古代カナンのペリシテ人が治めた5つの自治都市のひとつ、エクロンで祀られていたバアル神だろう。当時は嵐と雨の神として豊穣を司っていた。

しかし、教会に取り込まれるにあたり、豊穣とは真逆の、腐敗を意味する「蝿の王」とされてしまう。さらに時代が進み、中世の頃にはソロモン王に仕えし七十ニ柱の悪魔のひとりバエルと成り果ててしまう。

さて、このように非道に貶められているベルゼバブだが、地獄においては「皇帝」と評されることもある強大な悪魔であることに違いは無い。さらにベルゼバブは独自の騎士団「蝿騎士団」を創設し、そこには地獄の大公爵アスタロトや大法官アドラメレクといった、自らと同様の境遇を持つ悪魔が数多くその名を連ねるという。

ベルゼバブの持つ影響力は強大であり、地獄の中ではルシファーに次ぐ実力の持ち主とされている。・・・かつて砂漠を治めた主神の怨嗟の念は計り知れぬほどに深淵なのであろう。

ベルゼバブ/Beelzebub