「公正なるもの」の意。ラシュヌは正義が神格化した天使(ヤザタ)である。厳格ではあるが公正に死者の魂を裁きにかける。

ゾロアスター教の教義では、死者の魂は天国へと向かうために「審判の橋」(チントワ橋)を渡らなければならない、とされている。そこには橋の護り手であるラシュヌが立ちはだかり行く手を遮る。魂は「如何に生前を過ごしたか」をラシュヌが裁定するまで三日の間、自らの亡骸の脇で待たされるのである。

ラシュヌは黄金の天秤を用いて、ごく正確に魂の価値を計る。この秤は、髪の毛一本ほどの誤差さえ見逃さない精度を誇る。ラシュヌの下す審判の結果、善き魂と裁決されれば、「自らの善性を投影した」暖かい南風と芳しき香りをまとう若く麗しき女性に導かれ、善神アフラ・マズダの極楽へ向かい、橋を渡ることとなる。しかし、悪しき魂と裁決されると、「悪性を反映した」冷やかな北風と悪臭の醜女が現れ、さらに橋の幅は剃刀の刃ほどになってしまう。そして、悪しき魂は確実に足を踏み外し、悪魔の待ち受ける深淵へ落ちていく。そこには考えうるあらゆる苦痛が、悪しき魂を待ち構えているのだ。

しかし、魂の向かう先が極楽・地獄のどちらであっても、それは魂にとって仮の措置といえるだろう。実際には、終末の復活の日まで、肉体・魂を含めた人間全体が裁かれることは無く、フラショークルティ/Flashkart(最後の回復)という概念により、悪の魂も神の恩寵を受け救済されるという。

ラシュヌ/Rashnu